マジックという仕事をして、僕はいろいろな場所に出入りするようになったけど、ときどき僕がマジックをする、社交界には、普通の生活とはチョットだけ違う、特別なルールがある。
たとえば、以前にパーティで一緒になった観客の1人や、クライアントと、街でスレ違ったとしても、僕からは挨拶はしない。これは、別にプライベートだから、メンドクサイってことじゃない。これはいわば、社交界ルール。
何故かというと、僕が「先日は、どうも…」などと挨拶した場合、後で、その人の連れの友人や家族が「なんで、前田さんと知り合いなの?」とか「いつ、知り合ったの?」などと余計な詮索を受けることもある。そうなると、その人は、「どこでそのパーティがあったか」とか「誰といったのか」とか、しなくてもいい釈明をする必要がでてくる。場合によってはトラブルになることも。
だから、僕は向こうから話しかけるまでは、知らんぷり。もし、挨拶してきたとしても、僕は「こんにちは。お元気ですか?」ぐらいの挨拶しか返せない。だって、過去の出来事に触れない会話なんて、そう長続きはしないから。社交界の挨拶は、みんな短い。
人のことを、知らぬ振りをしたり、あえてそっぽを向いたりすることを「シカト」っていうけど、これはもともと博打打ちや渡世人の言葉。
一般的に、意地悪な行為とされているけど、使い方は思いやりしだい。
シカトの語源
僕は、このルールの原型を三島由紀夫のエッセイで、学生の頃に知った。まさか、自分が実践するようになるとは思わなかった。三島が愛した銀座の街角の今日。雨。↓