以前のエントリーに、茶道の慣用句「結構なオテマエで」って書いたけど、実はこの言葉、場合によっては続きもあるらしい。
「いえいえ、貴兄も結構な客ぶりで」っていう返礼の慣用句。
「客ぶり」について、茶人のウイットにとんだエスプリぶりがわかる、こういう逸話も。
ある茶会に、串に刺さった団子が、茶菓子にだされた。まだ、茶道が始まって間もない時代だったので、客人は団子を食べ終わった後の串を、どのような向きで皿に戻したら良いのか、その作法をとても悩んだ。
客人は悩んだあげく、懐紙で串を包んで、自宅で捨てることにした。
茶会が終わった後、客人が主人に「結構なオテマエでございました」と礼を申すと、主人は「いえいえ、貴兄も『結構な客ぶり(客人として立派だったということ)』。茶菓子の団子を『串』まで、召し上がっていただいて…」と返答した。
もちろん、これは、無作法ものに対する主人の嫌みかもしれないし、食べにくい串付きの団子を出した、主人の反省の言葉かもしれない。でも、スゴいのはこの後の客人の切り返し。
客人は「いえ、先ほどの団子の串は、長さといい、太さといい、大変素晴らしい出来映えなので、失礼ながら、次の茶会の参考にさせていただきたく、頂戴いたしました」と答えた。
主人は「ますますもって、見事な客ぶり!」と客人を賞賛した。
主人にも、客人にも、恥をかかせず。
でも、客人に恵まれることの幸せは、茶人だけでなくマジシャンも同じ。
今日のエントリーは、僕が出会った、たくさんの素晴らしい「客ぶり」の人々に、感謝を込めて。
(㈳日本奇術協会会報誌に1997年に執筆したコラムより一部抜粋。ブログを始めたときから、この話は書きたかったので、エントリーとして再掲。)