ときどき、衣装の相談にのってくれる僕の友達のスタイリストが、どこかでマジックを見たらしくこんな話を聞かせてくれた。
「マジックが終わった後、何気なく『僕は前田知洋さんのスタイリストなんだ』っていったら、そのマジシャンが、前田さんの衣装のブランドを知りたがるんだよね」
「『何で知りたいの?』ってきいたらさ、同じ服を着たいんだって。でも結局、教えなかった」
僕は
「教えてあげても良かったんじゃない?」
って言ったけど、
彼は続けて
「同じ服を着ても『同じマジシャン』にはなれないんだよね…」
と思慮深く答えた。
彼の言うことが本当だとしたら、その現実は冷たいけれど、彼の厳しい言葉の底には優しさがある。
自分のスタイルと他人のスタイル。違うからこそ価値を見いだせる。
そのスタイリストは
「それに…、一番楽しい部分を、人から聞いちゃうっていうのもツマらないしね。」
って言ったあと
「へへへっ」って照れくさそうに笑うから、僕も「へへへ」って、一緒に笑った。