僕はシンシナティに来ている。今回の旅行は、何年か前に、小さな女の子が書いた一通の手紙が発端だったと思う。
それはトランプを販売する日本の輸入代理店に向けてかかれた手紙で、こんな内容だった。
その女の子は祖父と旅行中、祖父にマジックを見せることをとても楽しみにしていた。ところが、鞄の中から新品のトランプを取り出し、開封をしてみると、カードが足りなかった。彼女はがっかりして、足りなかったカードのせいでマジックが出来なかったことを旅行中も気にかけていた。
その手紙のことは、トランプを製造するUSPC社にすぐに伝えられた。モノを作る限りは、どんなにチェックをしても不良品はゼロにはならない。けれど、アメリカから遠く離れた異国で、そんな小さな事件があったことを知ったUSPC社のスタッフたちは、彼らが作るトランプを手にする一人一人に、それぞれの思い入れがあることを再認識した。
それから、何年かが経った。ときどき、テレビ番組で、僕がトランプのマジックをする。その影響かどうかはわからないけど、日本でトランプを買う子供たちが少しだけ増えた。小さな女の子の手紙をとても気にかけていたUSPC社の極東担当の彼は、USPC社の社長になった。
そんな訳で、僕はトランプがどんなふうに製造されているかを見に行くことにして、USPCで働く人たちは、どんなふうにトランプが使われているのかをもっと知ることにした。つまり、僕がシンシナティのUSPC社の工場に招待されることになった。(つづく)
USPC社の歴史は、1891年に始まった。大きな時計台がシンボルになっている。写真の右端に見える煙突は、その当時に石炭によってトランプを製造する機械を動かしていたときのもの。