「親友」と呼ぶにはテレくさいし、日本ではあまり歳の離れた人をそう呼ぶことに抵抗がある。だから、そんな人のことをエントリーするときは「クロース・フレンド」っていうカテゴリー。
簡単に説明すると「友だち++」って感じかな。「++」の部分は「尊敬」であったり、「同じ価値観」であったり、「共有した時間」だったり。
知っている人もいると思うけど、これは英語の「close friend」をカタカナにしたもの。英語圏の人たちは、もっとカジュアルに「buddy」や「good friend」なんていうことが多いけど、近いスタイルのマジックの「close up magic」の「close」と同じだから、この言葉にした。
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僕がハラカンさんに初めて会ったのは、今から20年くらい前。マジックで使う道具を作っていて、ラスベガスをはじめ、世界中のマジシャンたちが彼の道具を愛用している。
ハラカンさんは仙人のような、白く長いヒゲをはやしていて、僕の記憶の中では、いつもアロハを着ている。年齢は80に近い。姓と名の漢字から一文字づつとって、みんなから「ハラカンさん」と呼ばれている。
ひさしぶりに会うハラカンさんは、変わらず、長いヒゲとアロハだった。二人とも海が大好きだから、夏の午後の砂浜の上にイスを並べて、いろいろな話をした。
僕とハラカンさんが一緒にいるときは、僕のマジックのアドバイスをしてくれる時間よりも、海辺でヨットに乗せてもらったり、温泉にドライブに行ったり、遊んでいる時間のほうが多い気がする。
浜辺が暗くなるまでの長い間、ハラカンさんの子供の頃の話、戦後にマジシャンとして活躍した話、マジックの道具作りを仕事に選んだ理由など、話はつきなかった。
夜の海を眺めながら、若くハンサムな、ハラカンさんがマジックを演じていた頃を思い浮かべてみた。
浜に打ち寄せる波の音が一瞬だけ、当時の劇場の観客の割れんばかりの拍手に聞こえたような気がした。