「親友」と呼ぶにはテレくさいし、日本ではあまり歳の離れた人をそう呼ぶことに抵抗がある。だから、そんな人のことをエントリーするときは「クロース・フレンド」っていうカテゴリー。
簡単に説明すると「友だち++」って感じかな。「++」の部分は「尊敬」であったり、「同じ価値観」であったり、「共有した時間」だったり。
知っている人もいると思うけど、これは英語の「close friend」をカタカナにしたもの。英語圏の人たちは、もっとカジュアルに「buddy」や「good friend」なんていうことが多いけど、近いスタイルのマジックの「close up magic」の「close」と同じだから、この言葉にした。
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僕が学生の頃、マジック・ショップで少しだけアルバイトをしていた。ショップの主はトンさんと呼ばれていて、僕を含めて、若いマジシャンたちをとても可愛がってくれた。
その時代には、マジックのコンベンションといえば、参加費が数万円もした。そんなとき、トンさんは学生だった僕らをコンベンションにスタッフとして参加させてくれて、たくさんの外国のマジシャンの演技を見せてくれた。
トンさんのマジック・ショップでアルバイトするキッカケも、僕がアルバイトをしたいと告げると、トンさんは快く承諾してくれた。ショップの手伝いもとても楽しかったけれど、トンさんは外国からマジシャンが訪ねてくると、僕に東京を案内させた。僕はいろいろなマジシャンたちと、代え難い時間を過ごした。
しばらくして、僕がプロのクロースアップ・マジシャンになりたいというと、普段、あまりトヤカクいわないトンさんが「それなら、いい服を着て、いいモノを食べるといいよ」と言ったのを今でもよく憶えている。
そのときはピンとこなかったけれど、今では、とても大切にしているルールの1つになった。
これは。マジシャンは良い衣装を着るという意味だけじゃない。良いサービスをするための近道は、自分自身で上質のサービスを受けてみること。そんなことをトンさんは教えたかったのだと思う。
写真:矢野信夫 協力:ROPPONGI HILLS CLUB