パーティなんかで、よく顔を見かけるけれど、一度もマジックを見せたことがない人がいる。僕もその人のことは何となく知っていて、その人も、たぶん、僕のことを何となく知っていると思う。
その人というのは、要人警護をするSP。僕が「こんばんは」と挨拶をしても、その人はいつも無言でうなずくだけ…。守る対象からあまり視線は離さない。重要な職務の邪魔にならないように、僕はSPの人が立つ廊下をそんなふうに通り過ぎる。
「パーティでお互いに顔は知っているけれど、マジックは見せたことがない」という関係は、僕にはちょっと不思議な感じがしていた。もしかしたら、その人だけがパーティ会場でシリアスな表情をしているからかもしれない。
実は先日、思いがけずその人にマジックを見せることができた。とある場所で、ばったり遭遇。僕は取材の帰りでポケットにトランプが入っていた。プライベートなその人の顔はとてもニコやかで、僕は少しの安心と、ささやかな満足感を得た。