マジックの途中で
「すきなカードの名前を言って下さい」
と、観客に聞くことがある。
もし観客が
「そうだなぁ…、ハートの8かな…」
なんて、答えれば、僕は
「いいカードですね」
と、セリフを続ける。
少し穿った見方をする人は「は、は〜ん。マジシャンは、どんなカードを言われても『いいカード』と答えるに違いない」などと勘ぐるかもしれない。けれど、「いいカード」と言う場合には、ほんの少し訳がある。
中には「なんでハートの8がいいカードなの?」とたずねる人もいて、そんなときは、こう説明する。
「『ハート』は『愛情』を示していますし、『8』は『スエヒロガリ』ですから」
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博多でご祝儀扇子をもらった。包みには「壽恵廣」と書かれていて「スエヒロ」と読む。これは、扇の形状が、待ち手は細く、先に向かうにつれて広くなっていることからの別称で「先行きがいい、将来の可能性が広がる」という意味が込められている。
先のセリフにあった「8」の漢数字「八」も「スエヒロ」と呼ばれる。
僕は、扇子を持ち歩いたりはしないけれど、道具としてのアイディアがとても好きだ。「室温は22℃がエコ」なんて、最近はいわれることが多いけれど、人それぞれで微妙な温度感覚は違う。扇子はそんな個人的な温度感覚を微妙に調整できる自由さがある。
「パーソナル」であるということ。そんなことが、微妙に大切だと思っている。
室温もトランプも。