まだ若い頃の話。あまりに忙しすぎて、「仕事を少なくする!」と心に決めたことがあった。ところが、電話などで仕事の依頼をいただくと、「マジックをして欲しい」なんていうラブコールな訳だから、断りづらい。
「ごめんなさい、その日はもう埋まっていて…」から始まり、いろいろな理由をつけては、休みの日を確保していた。
ところが、あるとき仕事の依頼を断る理由のネタがなくなって、思わず
「遠いので、いきません」
と言ったことがあった。
後から考えれば、お使いを頼まれた子供が親に向かって告げる、意味の無い言い訳のよう。さぞかし、相手は自分勝手なマジシャンだと感じたことだろう。
最近は、スケジュールの管理は自分ではしなくなったから、断る理由に頭を悩ませることはなくなった(そのぶん、こき使われて入るけれど…)。
今では、遠い街へ行くときは、いつも買うお気に入りのお弁当を決めている。そして、行った先では美味しいもを食べる。移動のスケジュールがタイトでも「きっと、美味しいものが待っているに違いない!」と信じる。それだけで、苦手なカバンのパッキングも進むような気がする。
出かけた先で、笑顔の観客の顔を見れば「来てよかったなぁ」と心から感じるのだけれど。
京都駅で食べたニシンソバ。新幹線の発車まで15分。それでも、身も心も温まった。